中南米の大自然と遺跡の数々。
9ヶ月に及ぶ縦断の記録です。
第28話 Tres del Paine                              



 <<Tores del Paine>>
  
 さすがに一ヶ月も風の大地・パタゴニアを走っていると、強風の向かい風にも慣れているはずだった。が、今日は違った。
100キロ程、ずーっと向かい風ではもうどうしようもなく、すぐ横を自動車が通る度に砂埃が舞い上がり、その瞬間は前を見ることもままならずひたすら下を向きながらとにかくペダルをこいだ。
ほんとに進んでいるのかと疑いたくなる程しか進まなかったし、それでも半日もこいでいるとはるか前方に見えていた山に近づいているのは分かるので、遅いなりにもちゃんと前に進んでいるというのが目で見て分かった。

 カラファテの氷河に続く次なる名所はパイネ国定公園内にある「Tres del Paine」(トレス・デル・パイネ)。ここの国定公園のキャンプ場にはホットシャワーもあり、売店もあるのでサイクリストにとっては非常にありがたく、ついつい長居してしまいそうな場所だ。世界中から来る多くの旅行者のほとんどがここでトレッキングをするのだが、今回は素通りをしてしまうことにした。時間がないっていうのもあるけど、実はあんまり「歩き」っていうのがどちらかと言うと好きではないためだ。

 手元に二つの地図がり、片方では川に橋があって渡ることも出来、、公園内を通り抜けできるのだが、別の地図では橋もなく公園の奥まで行ってしまうと次の目的地まで100kmほど遠回りをしないといけなくなるので、熱心に情報収集をした。人によって情報がまちまちでほとんどの人が「行き止まりで橋は無い。」と言っていたが、たった一人だけ「橋があるし、俺はそれを渡ってきたんだ。」という旅人に出会った。でもたった一人だけの情報を信じて万が一橋が無かったらと思うと、多少不安も残ったが、実際にその橋を渡った!と、言うので一かばちか駄目元で行く事にした。というのも、そのたった一人の旅人というのが同じサイクリストだったからだった。

 公園内には自転車で走ることなど考えてくれてないかのようにやたらと不必要にアップダウンが激しかった。この旅を始めた頃なら到底へばってたはずの登り坂も楽にクリアでき純粋にパタゴニアの自然を楽しむことが出来た。
いくつもの湖が目の前に広がり、そのすべての湖の色が違っていたり、真夏であるにもかかわらず雪を被った山々の姿、今までここに来るまでにいろんな景色を見て来て、感動し涙してきたにもかかわらず、再度ここでも見るもの全てに感動し、溢れ涌き出てくる涙も拭わずに長い下り坂でペダルをこいだ。

 <<橋!!!?>>

 いよいよ問題の川に着いたが、地図ではもう少し上流に橋がかかっているので川沿いの道を走り、橋を探した。前方に橋らしきものが見えてきて、「やっぱり橋はあった!!!」と喜んで、あのサイクリストの情報は正しかった事に感謝した。しかし、やっと橋の袂に着いてときには言葉が出なかった。
 確かに橋は橋に違いないがまさかこんな橋だとは夢にも思わなかった。

 人一人が何とか渡れるくらいで、ここを自転車を押していくとなるとかなりリスクが大きい。町田さんとどうしようかと相談したが、とりあえず自転車は置いて人間だけで渡ってみようという事になった。渡ってみると板はしっかりはしてるがいつ落ちてもおかしくは無い板で、ところによっては20cmくらいの板が二枚しかないところもあり、ここを自転車を押して渡るにはかなりの勇気が必要だった。
 水深も底は見えてるがどう見ても2m以上もありそうだし、たとえ浅かったとしてもこの流れの勢いでは立つことも出来ず、すぐに流されてしまうという状態だった。
 もちろん、真夏とはいえ、パタゴニアの川なら日本の冬くらいの水温くらいだし、「流されたら終わりかな。」という具合に町田さんと冗談交じりに言っていた。
 これを渡らなければ今来た道を引き返さないと行けないので、まあ、何とか自転車を押して行けるだろう!と、お互いに危険だという判断を下すよりも面倒くさがりだったので渡ることを決心した。

 町田さんから渡ることになったけど、2人共こんなところを渡ったというのを自慢したくお互いが相手の勇姿をカメラに収めることにした。
 
 町田さんは何とか無事に渡ることが出来たが問題はこちらの方で、とにかくフル装備の自転車は像像以上に重く、ちょっとバランスを崩すともうそれだけで支えることが出来ず、目の前で勢いよく流れていて、まるで「いつでも飛び込んできてください。」と囁いているかのような、川の中に飛び込んでしまう。
ただの寒中水泳ならまだしも生活用品一式を失うのはあまりにも避けたかったので、足が震えそうになるくらい緊張した。余裕を見せて洒落の一つでも言えたら良かったけどもうそんなところではなく、とにかく必死だった。距離的には4〜50m程度の距離だけど生きた心地がせず、目の前にゴールが見えているにもかかわらずいっこうにその距離が縮んでいる気がしなかった。

 やっとのことで向こう岸に着いたときには全身が汗でびっしょりだった。あとはいよいよ南米大陸最南端の都市「プンタ・アレーナス」を目指すのみになり、日程的に何とか2月中にはこの旅の終着地・南米最南端の町「ウスアイア」に到達出来そうな気配がしてきたあと、1週間で何もかもかもが終わる・・・。そう言い聞かせて目の前にある急な斜面に向かって猛ダッシュでペダルをこいだ。
 そう、あと1週間・・・。

( 第29話へ続く )

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