中南米の大自然と遺跡の数々。
9ヶ月に及ぶ縦断の記録です。



第1話 準備


 −いらっしゃいませ−

 −ありがとうございます−

何度言ったか分からないが、もし1年間、これらの言葉を言い続けることが出来れば、夢は叶うと信じ言い続けた。そして1年後、まさか本当に旅立つことになってしまうとは。  

大学2回生の後期テストが終り、ごく平凡に学生生活をENJOYしていた。1回生の4月からサークルに参加し、バイトも月5〜6万程度稼ぎ、毎日が楽しかった。大学入学以前は、大学生になったら思いっきりバイトして、海外に行きまくってやると思っていたが、今まで、長期間クラブを続けられなかったのに、何故かサークルにはまってしまい、そんな事は全く現実性の乏しい夢でしかなかった。

ある日、いつもの様に、世界を自転車で走った人の本をよんでいると、既に読んだ事のある本だったが、ある文章で衝撃を受けた。
その文章は、そのサイクリストの資金集めについての回想だった。 
−俺はこの2年間何をしていたんだろう? 金が無い、時間が無いというのは、単なる甘えた言い訳にすぎず、本当にやる気があるんやったら、どんなことをしても、たとえそれが、めちゃくちゃ辛く、ハードなバイトでもやって金を作るべきだ!−

そして、その日からバイト探しが始まった。



まず思い付いたのが定番の新聞配達。これなら大学に通いながら十分可能だと思ったからだ。早速あちこちに電話をしたが、夕刊も配れないと駄目だと言われ全て断わられた。

どうしたものかと悩んでいると深夜営業をしている喫茶店の募集広告が目に入った。 −喫茶店のバイトなら今もやってるし、掛け持ちで働けば相当の収入アップになる!。と思いすぐに電話をした。
面接でその場で採用決定された時の喜びは今でも忘れられない。あんなに喜んだ事はそうなかった。

これでとりあえず資金面での海外サイクリングへの道は出来た。そして、想像以上に過酷なバイトと勉強の両立が始まった。  

まず、夕方17:00から22:00までB喫茶で働いた。そのあとすぐに下宿に帰り10〜30分程仮眠を取り、次にA喫茶で23:00〜7:00まで働いた。
後にB喫茶の方は週1〜2回になり、その代わりに家庭教師のバイトを1つ増やし、A喫茶は週4〜6ぐらいのペースで1年以上も働いた。

朝7:00にバイトが終わるととにかく寝た。そして昼頃起きて大学で講義を受けた。こんな不規則な生活に慣れるのは大変だったが、慣れてしまうとそれが普通の生活になってしまい、違和感を感じ無かった。
ただ、週1回程睡眠の為の日を用意していた。一度、実験の最中に居眠りをしてしまい、教授を怒らしてしまい退場にもなりかけた。こんな風だったので、資金作りの姿は人の手本というよりはむしろその逆だったと思う。やはり、学生の本分は勉強だというのが今後の旅の途中で思い知らされた。だが、本当にやりたい事をやる、人生の神髄を追求するという点では全く正しい道だったと信じている。 


バイトにも慣れてきた3回生の夏、第1回目海外サイクリングを実行した。バンコク(タイ)〜マレーシア〜シンガポール、2000km。マレー半島縦断だ。初めての海外旅行という事もあり、近場で比較的治安の良い所を選んだ。
6週間の旅は海外とはどういうものかと知るには十分な成果を得た。そして再び連日連夜バイトに明け暮れた。  

普段の生活が心身共のそなえとなっていたのだが、年末、年始はさすがに参った。

−もう、金はいらんから休ませてくれ! とにかく寝たい!ー と、弱音を吐いてしまった。
この頃は、ほんの少しでも寝る時間があればとにかく寝た。ただし、一つだけ言えるのは、たとえバイトといえど絶対に”こなしている”という仕事はしなかったと言うことだ。いつも真剣だった。というのも頭の中では旅の資金を稼ぐ段階で既に旅は始まっていると考えていたからだ。  


そして、1996年3月大学へ休学を申し出た。
内心、工学系の大学なのですぐには許可が下りないと思っていたが、学科主任の教授は、意外な程あっさりと休学願に判を押し「がんばれよ!」と、言ってくれたのが最高に嬉しかった。
その直後のサークルの飲み会で、初めて歩けなくなるまで飲んだ。そして見事に酔いつぶれた。が、その時の酒はめちゃくちゃうまかった。

4月からはバイトを少しずつ減らし準備に入った。周りの友人達は、会う度に卒業研究や就職活動についての話をしていた。
1年遅れる事について、全く後悔や不安は無かった。ただ、いつも思っていたのは、−今、俺は生きているんだ!− と。  

出発直前、毎晩の様に壮行会が行われ、いつまでもこの場にいられたらなあーと思ったりもした。
出発の日まで一日としてゆっくりと休める日はなかった。  
第2話へつづく

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