中南米の大自然と遺跡の数々。
9ヶ月に及ぶ縦断の記録です。             
第17話 草原の中の雷                               


<<草原の中の雷>>

 朝から快適なサイクリングが出来た。快適と言っても、場所がここ、アンデスの中での話であって、普段、ダートって言うのは出来れば走りたくない道で、この区間はダートであるにも関わらず、パンクの心配がないほど整備されていた。一応、地図と速度メーターから考えると次の町(集落?)の手前5キロほどの所にいて、天気がどうも崩れそうだっで、今日はそこでテントでも張らしてもらおうと、雨が降ってこない間にと先を急いだ。

すると、辿りつく前に雨と雷。雷が通り過ぎるまで、自転車から離れておこう、と思い、道の脇に寄ると、後輪がパンクした。ツイテナイ! クッソーと、いつもなら思うんだが、だんだん雨が強くなってきたのでそんなことを考える前に急いでパンク修理にかかっていた。タイヤチューブを取り出したくらいから、雨が雹(ヒョウ)に変わってきて、近くで雷もなり始めていたので、これはヤバイ!と思い、辺りを見渡し、屈むとちょっと身体より大きいくらいの大きさの岩を探し、その側に走りより、屈んだ。辺りを見回すと一面の草原で、雷の餌食になるものはというと、自転車か自分の身体くらいしかないことに気づき、恐ろしいほど怖くなり眼鏡を外し、工具入れとして使っている合成皮革のバッグにしまいこんだ。それくらいで絶縁できるかどうかなんてのは、そのときは考える余裕も無く、「とにかく、雷が遠ざかるまではこの岩陰でじっとしていよう!とにかく、今、動いたら確実にやられる! 」そう、自分に言い聞かし、雷が去って行くのを待った。空には稲妻が光っていて、子供の頃によくやったように光った瞬間に数を数えたらすぐに続いて音が鳴り、もう、本当にヤバイと感じた。

そうこうしていくうちにどんどん雹の勢いが増し、痛かった。かなりの大粒で辺り一面が見る見る白くなって行き、指先の感覚も無くなってくるし、もう、ただ、震えている以外どうしようもなくなってきて、とにかく、雷が去って行くのを待った。去ったかなあと思い、自転車に駆け寄ってみるがまた、雷ですぐに引き返した。今度こそはと思い、パンク修理に取り掛るが、雹は一向に止む気配を見せず、それよりも増して行くかのようにさえ思えた。せっかく温めて、感覚を取り戻した指先はすでに感覚をなくしていて、思うようにパンク修理ができず、焦る一方だった。よく見ると大きな穴が二つ空いていて、手元にあったパッチを二つ使い、直したが、上手くいかず、パンク修理位と思いながらも、今思えばかなり動揺していたんだと思う。

丘の影に家が何件か見えたので、もうそこまで歩こう!と決意し、自転車を押していくことにした。この距離なら1時間もかからないし、目的地が見えているというので、なんとか自分を取り戻すことができた。自転車を押して行こうと車道に自転車を押し出すと、ちょうど、小さなトラックが通り、その見えている家まで乗っけてもらえるというので、甘えた。「人はどうしようもなくなったときには、必ずどこからか差し延べてくれる手がある。」という、昔に学校の先生が言っていた言葉を思いだし、あの言葉は本当だったんだと実感した。

あっという間にその家まで辿りつき、よくよく聞くとそこが地図に載っていた町で、集落と言うにもなんとも物足りない感じだけど、地図に載っているくらいなんだし、たぶん、この辺一帯では一番家が密集している地域なんだろう。早速、レストランで熱いコーヒーを入れてもらった。もちろん、レストランって言っても、普通の家みたいなところにテーブルと椅子が置いてあり、そのすぐ横で生活雑貨などが売られているような、何でも屋のことだけど・・・。熱いコーヒーは指先の感覚を戻し、凍えた身体中を溶かしてくれた。

<<アンデス山脈に大名行列?>>

 相変わらず道の状態が悪く、荷物が重いのも加わってか、パンクを直してもすぐにパンクした。ただパンク修理するだけならまだましなんだが、刺さるような日差しのもとではそれは灼熱地獄を思わせ、ちょっと前まで肌寒かったのがウソのようだった。さらに、悩まされたのは虫の到来で、その蚊の仲間に刺されると、夜中に突然体中が痒くなり、血が出てくるまで掻いてもかゆみは止まらなかった。おまけに手足はボコボコに張れてくるし、もうかなり、自転車での旅、特にパンクに嫌気がさしていた。そんなときに2人連れのライダーに出会った。ドイツ人のカップルでオーストラリア大陸の後、アラスカから南下して来たらしく、ちょっと話して去って行った。さすがにバイクは速く、こっちが悪路と闘っているのに、もう、見えなくなってしまった。この旅がバイクならどんなにか楽だっただろうなあ、などと、弱音を吐きながらも、どうすることも出来なかったのでとりあえず、前に進んだ。

 やっとのことで小さな村に着くと、すぐに子供達がやってきた。さっきのライダーたちの事を聞くと、止まらずに通りすぎて行ったらしく、今日2度目珍客を歓迎してくれているようだった。「冷たいコーラが飲みたいんだけど・・・」と、すぐ近くにいた子供に言うと、みんな口ぐちに「ティエネ、コカコーラ・エラーダ?(冷えたコーラはあるか?)」と叫びながら、お店らしき家を一軒一軒尋ねてまわった。その姿が何とも、大名行列のような感じで恥ずかしかったが、嬉しくもあり、やっと、一軒だけ冷たいコーラが置いてあるというので、そこで買うことにした。期待していた物は別に冷たくは無かったが、みんな必死に叫んでくれ、探してくれた店だったのでおいしくいただくことが出来た。コーラを飲みながらいつものようにどこから来たんだ?、どこに行くんだ?、という、質問が始まった。このとき面白いのは大抵子供達が先に話し掛けてきて、大人は話が一段らくした頃になって初めて、そばに寄ってきて話掛けてくる。それほど、うさん臭く、見えるのだろうか?
 こういった、ローカルな人々と接することが出来るのも、自転車ならではで良いなあと思いながらも、やっぱりパンクだけには参った!

( 第18話へ続く

HOME_side CUB_side BEAVER_side VENTURE_side
BOY_side 中南米旅日記 DAN_side


ご意見・お便り viaje@fogatas.comメールヨロシク!